イベント報告
第 3回マリアナ・コーヒー・トレイルラン
3rd Saipan Trail Run
2010年1月23日
■参加レポート  中原恭恵

山を駆け巡る。何か神が宿っているのではないかと感じさせるほどの引き込まれていくような不思議な力。

私がトレイルランに魅せられたのは、 そんな不思議な力に自然と足が動き、走ることが純粋に楽しくて大地が気持ちよくて、走りきった後の汗をぬぐうとき素直になれた自分がいる。 この感動をサイパンの最高の景色の中で味わいたい。そんな期待を胸にサイパンに行くことを決めた。

私は、トレイルランのレースに参加すること自体、人生初のことだった。山を駆ける人たちは皆ほとんどがすれ違うと声をかけてくれる。海外の 人たちと笑顔をたくさん交わし、トレイルランすべてを楽しみたいという期待も抱いていた。

親友と

今回、陸上競技一本で学生時代を過ごしてきた親友を誘った。彼女は、陸上界では全国レベルで走ってきた子である。この春、 大学を卒業し、小学校の先生になる。今までトラックという仕切られた空間の中で、いつも緊張感に包まれて走り続けてきた彼女に、卒業を機に 「走ること」の楽しさを味わってもらいたい。

記録との戦いとはちがう「走ること」の意味を感じ、卒業してからも彼女なりに「走ること」を続けてもらえたらな・・・。トレイルラン 自体やったことがない彼女だったので、初めてだからこそ、日本を離れサイパンという地で経験することで、感動をより大きなものにしたいと私は目論ん だのだった。

海外旅行も初めてだった彼女は、サイパンに走りに行くことを何週間も前からとても楽しみにしていた。私は、以前グアムにレースに行ったこと があったので、あんな感じの常夏の島へまた行ってくるのだなと想っていたが、飛行機に乗り込むと、彼女とともに気分が盛り上がってきた。

         
サイパン倒着

雪のちらつく寒い日本から降り立ったサイパンはやはりあたたかい。深夜に到着し、生ぬるい風が肌を包んだ。

翌日はもうレースの前日。朝起きると、天気はくもりがちと思っていたが、そんなのもつかの間。一気に晴れて予想通り常夏の島の陽気となった。天気に 比例して、テンションも上がってくる。

海で泳いだり、街へ繰り出しに行った。彼女をスーパーに連れていくと、すべてがビッグなことにとても驚いていた。 地元らしい感じのお店でランチを食べた。食事の量もやはりビッグなのがまた驚きの連続である。

ジャングルクルーズへ

レースの朝は早い。6時半にスタートだったので、5時に起床しホテルからスタート地点まで2キロほどジョグして向かった。あたりはまだ真っ暗だ。 スタート地点に迷ってしまいあたふたしたが、ライトのついているところに人が集まってきていて無事たどり着けた。

地元の少女たちによるお祈りを受けて、無事ここに帰ってくることを祈った。だんだんと明るくなっていく中で、レースがスタートした。

前半は舗装された上りが続く。私は自分の体がどれほど動くかわからなかったので、抑え気味に走り始めた。さすがに始めの上りは呼吸が苦しく 足も前に出ない。親友は、私よりも前に行ってしまった。舗装が終わり、砂利道へと変わっていく。

私にエンジンがかかり始めたのは、このあたりからだった。ジャングルに入っていくワクワク感に駆り立てられる。そう想って走っていると、 親友に追いつき「楽しんで」と声をかけて先を進んだ。山の中は、まさにジャングルクルーズそのものだった。

感動のタポチョ山頂

草木を掻き分け、足場に注意して進んだ。ずっと走り続けるのは至難の業、いつの間にか前にも後ろにも人がいなくなっているのに気づくと、少し不安になった。 そうして開けたところに出ると、山頂らしき地点が目に飛び込んできた。

あんな遠くに見えた頂上がもうそこまで来ていると思うと、激しくなる息づかいに増して、 頂上から見える世界の期待感に心駆られていった。

グラデーションを奏でるマリンブルーの海、緑混じりに広がる街並み。期待を超える雄大な眺望に、心身ともに陶酔し、走ることを一瞬忘れるほどだった。 両手をいっぱいに広げ、空を仰ぎ風を感じた。自然は大きい、自分はこんなにちっぽけで日々抱える悩みなんてもっと小さなものなんだ。

だから、一生懸命前を向いて歩んでいかなきゃ。そう想わせてくれただけでサイパントレイルランはステキな体験だった。折り返すと、たくさんの人たちとすれ違う。 声を交わし笑顔を交わし、それぞれの人たちのそれぞれのトレイルランがあるのを感じた。

山の中を下るのは、スリル感満点だ。途中で道を間違えるハプニングも、遠く後ろからの声に助けられ、ツイてるツイてる絶好調!と想った。そのままひたすらゴール を目指し、無心に走った。フィニッシュラインを切ったときの達成感は言葉では表せないほど大きかった。

終わってみれば、2位

気づけば2位という結果がついてきていた。競技をやっている以上は勝負の世界なのだが、これが満足のいく走り、理想の走る楽しさなのかなと想った。 ゴール後の生ぬるいココナッツジュースは、ひときわ特別な味がした。

親友は、見ず知らずの男性2人と手を取り合ってゴールした。知っている単語を駆使してしどろもどろの会話を交わしながら走ってきたと言っていた。自然を走 る楽しさ、人に支えられながら走る楽しさ・・・トレイルランを初めて体験し、トレイルランの魅力に取り付かれようだった。「来年も来たい。日本でもまた一緒に 山に走りに行きたい!」と言われたとき、私は「しめしめやったぞ!」と嬉しく想った。

心地よいサイパン・ホスピタリティ

サイパンは、グアムとは違った雰囲気の島だった。人があたたかい、親しみやすい、ゆったりしている、そんなふうにほんわか包んでくれるこの島の優しさを感じた。

初海外旅行、初トレイルランだった親友を連れていったのがサイパンで良かったと私は感じていた。これから新しい社会に飛び込んでいく彼女に、この感動が与えた 力はきっと、ひとまわり彼女を大きく成長させてくれたことだろう。

サイパンに行くことで、しばらく会っていなかったKFCのみなさんに再会できたことがまた私は嬉しかった。今回もお世話になり非常に心強かった。 ありがとうという気持ちがいっぱいだ。またサイパンでレースを楽しみたいと心から想った。タガマンへ即決した私がいたのも、サイパントレイルランのお陰だ。 ステキな人たちが集まるこのレースに感謝したい。

■KFC徒然

第3回となる“マリアナスコーヒートレイルラン”が2010年1月23日(土)に開催された。このイベントはサイパン島の自然の素晴らしさを日本人 を始めとする外国人に紹介したくて、2007年7月にマリアナ政府観光局へ始めるように勧めたものだ。

これまで海のアクティビティは紹介し尽くされている。しかし、サイパン最高峰のタポチョ山から望むコバルトブルーのフィリピン海の絶景や手つかず のジャングルに生えている巨樹、それに野生のコーヒーの木などは余り知られていない。これらは今後サイパンの貴重な観光資源になり得ると感じていた。

それに、何と言っても、サイパンのジャングルにはヘビなどの危険な生物が生息していないので走り回っても安心だ。

これまでサイパンでは山を駆けると言うスポーツを知らなかった。しかし、エクステラでジャングルランを経験していたので比較的すんなりと理解してくれた。 そして担当は観光局のエド・ディアスにやってもらうことにした。彼は10年以上前からKFCがマリアナで催すイベントの手伝いをしていたので、多くのことを学ん でいたし、能力的にも優れていると判断したからだ。

サイパン倒着、頑張るエド

1月20日(水)、サイパンへ到着した。昨年11月末から、マリアナ諸島への入国はグアム同様、アメリカ合衆国の入国審査に準ずるシステムとなっている。 そのため、新システムでの初入国となった。話によると、始めはやはり混乱したようだが、入国は割合スムーズで、むしろ以前より早い気がした。

到着後、先ずマリアナ政府観光局へ行った。

早速、エドとミーティングを持ち、コース設営などの準備の進捗状況を確認した。全てではないが、一部にたいへんなコース作りがある。今は使われなくな ってしまった山道をエドが中心となって、草刈り機で切り開いていくのだ。我々にはジャングルにしか見えないブッシュの壁を大会1か月ほど前から切り開いて いくのだ。それもほとんど彼一人で。

そして我々は、そのエドを手伝う為にちょっと早目にサイパン入りしたのだ。というのも、エドは非常にまじめで、性格もやさしく、きちんとしていおり、 家柄も育ちも良く、まさに“好青年”だが、その性格のせいか、多少神経質で、几帳面すぎて、気が小さいところがあるからだ。

すこ〜し“へたれ”なので、 ちょっとでも手伝ってあげないと、いっぱい一杯の飽和状態になって、パニックに陥ってしまう。裏を返せば、それだけ真摯に取り組んでいるということで、 何事に付けゆる〜い感じの南の島の人間には珍しいタイプだ。

ミーティングでは、準備は大体整っているようだが、その表情は大変緊張しまくっている。さっそく明日、コースのチェックとセットアップを一緒にする事 にした。

コース設営 with ED

1月21日(木)朝、早速エドと共にジャングルのコースに入った。スプレーやリボンでマーキングしていった。午後、日本からの選手の大部分が到着した。 それと、日本からの取材チームであるエイ出版のトレラン雑誌のスタッフが到着した。因みに、昨年はランナーズの雑誌取材が入った。

レース前日、緊張するエド

1月22日(金)、午前と午後にコースの下見に行った。午前中は取材チームと同行した。取材はエイ出版“Trail Running Magazineタカッタ”というトレイルラン雑誌で、 選手兼モデルの長谷川さん、選手兼ライターの西田さん、カメラマンの宮田さんという3人のメンバーだった。

実際のスタート時刻と同じ時間にコースに入り、撮影ポイントのマーキングなどを行った。

午後からはトレイルランのプロ選手である宮地藤雄くん、オフィシャルツアーを利用して来られた斉藤さんと土肥さんとでコースの下見に出かけた。昨日のエドと 来た時、今朝の取材チームと来た時、そして午後の宮地選手と来た時と・・・来るたびに、コースを示すマーキングのピンクリボンが増えていってる?!

エドがその後フランクと一緒にやったのだ。ミスコースを相当に心配しているようだ。エドは不安で心配でたまらないのだろう・・・。 いい奴だ。時間を追うごとに、 エドのビビリが増していく。

レース前日、不幸なエド

コースの下見も準備も終え、夕方、観光局にリクエストしてあった小切手を取りに行った。

まだ、出来ていなかったので、そこで待っていてもしょうがないので、ホテルに帰ってきた。泊まっているホテルも部屋番号も知ってるし、レース当日朝にも 会うし、“ゆるーいのはいつもの事だし、まっ、いいかっ。”と、こちらはこれだけの事だった。

しかし、後で聞いた話だが、これがエドを眠れないほど悩ます事になろうとは、夢にも思わなかった。

そうとは知らず、その後、夕食を斎藤さんと肥田さんと宮地君とでメキシカン料理を食べに行った、しかし、そのレストランの雰囲気も味も以前に比べて落ちていいた。 せっかく3人を招待したのにちょっとガッカリ。

レース当日、睡眠不足のエド

1月23日(土)受付もあるので、スタート会場に夜明け前の5時に行った。エドがまだライトのない暗がりで、遠くに顔を見つけるなり、“小切手”を手に緊張しまく った顔でやってきた。

聞くと、エドは小切手の準備が出来ていなかった昨日、黙って観光局を後にしたのは、“怒っているから・・・”と思ったらしい。その後、出来 上がった小切手を持って宿泊ホテルにやってきたが、いなかったらしい。その夜に部屋に電話をしたらしいが、それも繋がらなかったらしい。

そこでエドはこう考えた。小切手出来上がっていない→大西怒る→怒って観光局から立ち去る→ホテルに行ったけど怒っているので会ってくれない→電話したけど まだ怒っているので出てくれない・・・そして怒った大西は土曜日の朝会場にこない→朝、会場が混乱する・・と、ドツボなネガティブ・スパイラルに陥ってしまっ たようだ。

実際は、こんな事はこれっぽっちも思っていなかった。いつも“ゆる〜い”島なので、こっちも“ゆる〜く”考えていただけだ。エドは取り越し苦労と分かり、 この件に関しては安心したようだ。しかし、まだまだ、超緊張した顔つきだ。

レース・スタート!

日本人選手の受付は滞りなく済み、後はスタートを待つだけだ。ローカル達の受付が多少混乱しているようだ。MCが得意のフランクがハンドマイクを手にMCを 務めていた。何とか、かんとか全員受付を済まし、短いブリーフィングの後、スタートラインについた。ローカルダンサーによる“安全祈願の舞”の後、南の島ら しく、ホラ貝でスタートホーンが鳴った。

約10分遅れの06:40のスタートとなった。ようやく空が白み始めていた。でも、この2、3日サイパンの天気は曇りがちであまり良くない天気。いつもの “ピーカンなサイパン”をこの2、3日は見ていない。曇りがちな晴れは、選手にとってはむしろ走りやすいだろう。写真にはやっぱりピーカンな空が欲しい。

レースは海抜1mのマイクロビーチをスタートし、タポチョ山頂を目指す。ここまではひたすら上りだ。その後は下りに入り、コーヒー・プランテーションを抜け、 巨樹のジャングルを抜け、野生コーヒーの群生地を抜け、ヨットハーバーを抜け、マイクロビーチでゴーするというコース設定だ。

スタートから2時間ほどで、殆どの選手がゴールした。男子優勝は宮地藤雄選手、2位は韓国人選手、3位はローカル選手だった。女子優勝はマミコ・バーガー、 2位は中原恭恵選手、3位はハセガワ・マイ選手でした。

ゴールした選手は、会場でココナッツジュースを片手に、まったり、のんびりレース後のひと時を楽しんでいた。そうこうしている内に激しいスコールが やってきた。まもなく、全員がゴールし、ランチ・アワード・パーティーまで、自由時間となった。

美味しいアワード・パーティ

11時30分になり、会場近くのマイクロビーチにあるパビリオンでランチ・アワード・パーティーが始まった。ローカルスタイルのランチメニューで、 十分おなかいっぱい食べられる。ビールもソフトドリンクもデザートもあり、和気あいあいな感じだ。

総合男女各1位〜3位の選手に賞品とは別に賞金も授与された。レースは賞金があると楽しいし、場の雰囲気も盛り上がるというものだ。各カテゴリーの表彰が 終わり、最後には参加者全員へマリアナ・コーヒーのパック詰めがプレゼントされた。この頃になると、やっとエドの緊張がほぐれ始めた。Good Job, Ed! 一生懸命 なエドは本当に“かわいいヤツ”だ。

リラックス・タイム

この日の夜はタカタッタの取材チームとジェントル・ブルック・カフェへ夕食に行った。前夜のメキシカンが失敗だったので、ここでもメキシカンを注文して見た。 ビンゴ!!美味かった。ここは何を食べても確実に美味しい。今のサイパン、人を招待するならここが安心かな。

1月24日(日)レースも終わり、午後の便で、殆どの日本人選手、取材班は日本へ帰国した。

1月25日(月)次回のマリアナ・イベントのミーティングをしに観光局へ行った。帰り際に、エドが日本のKFCのトレイルランレースを見学して、 次回からのサイパンのレースに生かしたいと言ってきた。

そんな事情で、4月4日にエドとフランクが第12回Lafuma青梅高水山トレイルランを視察に日本の青梅へ来ることになった。

◆サイパン島情報はこちら

【Special Thanks】

Marianas Coffee/ Team PDI/ マリアナ政府観光局